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食と健康を科学する

健やかで心豊かな生活をおくるために必要なこと、それはバランスのとれた食生活です。老化防止や疲労回復、生活習慣病予防の基本となるのが毎日の食事だとはわかっていても、それを実行し継続するのは、とても難しいことです。このコーナーでは、食に関する理解を深めていただくために、食品中の栄養素の働き、病気を防ぐための食事、私たちが食品をおいしく感じる仕組みなど「食に係わる健康科学」の知識をわかりやすくご紹介していきます。

食の機能性と食生活(前編)

取材協力・監修
(独)農研機構 食品総合研究所 食品機能研究領域長 日野 明寛 先生

ひの・あきひろ 1983年農林水産省に採用され、食品総合研究所に配属(酵母研究室、味覚機能研究室長、GMO検知解析チーム長など)、農林水産技術会議事務局(バイオテクノロジー課、先端産業技術研究課課長補佐)、内閣府食品安全委員会(事務局次長)を経て、2009年4月から現職。農学博士。

「健康を維持し、大きな病気を患わないためには、日々の生活の中で体調に合わせてさまざまな食品を適量食べることが大切です。そのためには、食品が持つ様々な栄養・感覚(味覚、嗅覚、テクスチャーなど)・機能性、そして安全性に関する知識を身につけ、上手に生活に利用していく必要があります。食品総合研究所では、食品が有する様々な役割についての科学的根拠を示し、その成果を分かりやすく多くの方々に伝えられるように常に意識して、私たちの健康維持に貢献する研究を進めています」

プロローグ〜長寿国日本の現状

年に一度の健康診断を受けると、2008年から、「メタボリックシンドローム判定」という項目が目立つところに書いてある。筆者の受けている健診だと、危険度が0〜4まである。危険度3、4だと生活習慣改善のための指導を受けることになっている。これは、2008年4月から40〜74歳までの健康保険加入者を対象に「特定健康診査・特定保健指導」という制度がスタートしたためだ。日本人の生活習慣が変化し、糖尿病などの生活習慣病を原因とする死亡は全体の約3分の1にものぼっている。生活習慣病の予防には、バランスのとれた食生活と適度な運動が必要だが、なかなかそれを実行できずに危険なレベルになっている人を健診で見つけて支援し、医療費の増大を抑えようというものだ。

では、私たちが食品を食べる目的は何かを考えてみよう。まず、最も大切なのが体作り、活動するためのエネルギーを得るための栄養素の供給源としての役割である。第二に、味や香り、色や形など感覚によって食事を豊かにする役割。第三は、私たちの健康を維持し調節する役割である。わが国のように経済的に豊かだと、最初の役割はあまり意識されずに、グルメ情報が多く流される中で、カロリーの高い食事ばかりとって、結果的に過剰なエネルギーが脂肪として体内に蓄積されてしまう。そして、知らず知らずのうちに体の代謝バランスが崩れていき、健康状態に黄色信号がともると、今度は途端に健康志向の食品をとることに関心が高まるというのが、分かりやすいストーリーであろう。

とはいえ、わが国は20年以上にわたって平均寿命世界一を維持している立派な長寿国である。それを可能にしている一つが日本型食生活であると言われ、日本食が世界的なブームにもなっている。しかし、日本の高齢者の割合は22.7%(2009年推計)に達し、世界のトップを切って超高齢化社会(65歳以上の人口が全人口の21%以上)に突入している。

また、自立して生活できる寿命(病気や痴呆、衰弱などで要介護状態となった期間を平均寿命から差し引いた年数)を示す「健康寿命」との差は男性で8歳、女性で6歳(2005年)あり、この間は家族等の何らかの介護・支援が必要となっている。この「平均寿命」と「健康寿命」に差がないようになれば、健康で長生きできる理想的な人生となる。

健康増進のために必要なビタミン・ミネラル

高齢化社会となり、食事や運動などによる健康維持・増進に対する意識が高くなった。適切な食生活の基本は、主食、主菜、副菜をバランスよく摂ることだ。例えば、多くの人が心がける必要があるのは、野菜と果物の摂取であろう。野菜や果物が私たちの食生活に欠かすことができない食品であることは、よく知られており、私たちの体に必要なビタミン、ミネラルの供給源として大きなウエイトを占めている。また、含まれている様々な機能性成分の複合的な作用により、生活習慣病の予防効果があると考えられている。

とはいえ、不規則な食生活や好き嫌いもあり、普段の食生活で十分に摂取できていないのが現状であり、意識しないと中々理想的なバランスの良い食事は難しい。毎日、野菜は350g、果物は200g摂取すべきとされ、この野菜と果物の摂取運動は「ファイブ・ア・デイ」と呼ばれ、世界中で行われている。

図1:野菜と果物の消費者の推移

わが国の1人あたりの野菜消費量は、年々低下しており、良くない形で「欧米化」が進んでいるといえる。果物にしても実は目標値にははるかに及ばない数値なのだ。

ファイブ・ア・デイ運動が世界中で展開
図2:ファイブ・ア・デイ

「1日に5皿の野菜料理(5サービング=350g)と果物(2サービング=200g)を食べましょう」がスローガンの運動。アメリカで1991年に始まり、日本でも2002年に協会が設立された。

わが国ではおいしいものを世界中から集め、食べるものに困ることはまずない。しかし、食生活が豊かになるのと同時に、がん、心血管疾患、脳血管疾患などが増加し、その大きな原因が食生活や運動不足などの生活習慣であることが分かっている。この生活習慣病の対策として、米国では1980年代に国立がん研究所とカリフォルニア州が協力し、がん予防を目的とした野菜と果物摂取の推進運動「ファイブ・ア・デイ」(5 a Day)を始めた。1人当たりの野菜・果物を1日5皿以上食べることが健康維持によいと、消費者を啓発しようという社会運動である。最初は、カリフォルニア州で始められたが、成功したことから、1991年からは米国連邦保健省や米国がん学会が協力し、米国国民の健康意識を高めることに大きく貢献してきた。実際に、米国の野菜の消費量は1985年に比較して20年間で約23%増加しており、2003年には過去70年間で初めてがんによる死亡者数が減少し、ファイブ・ア・デイ運動が大きな要因であると言われている。この運動は、その後、カナダ、EU、ニュージーランドなど世界30カ国以上で進められる健康増進のための運動として展開されてきている。

わが国においても、2002年にファイブ・ア・デイ協会が設立され、健康増進のために野菜・果物の食べる量を何とかイメージしてもらい消費量が増えるよう運動が行われている。しかし、わが国の一人あたりの消費量は、図1に示すように、摂取の目標値(野菜350g、果物200g/日)の野菜で約70%、果物では約55%でしかなく、まだ浸透していないようだ。野菜は、低カロリーだし、ビタミン、ミネラルが豊富だからと、それなりに理解されているが、果物はカロリーがあって食べ過ぎると太ると誤解されていることが多い。実際には、中玉のみかん1個(100g)でコンビニおにぎりのごはん(1個でごはん100g、168Kcal)の5分の1個分にしかならない。同じカロリーを他の果物に当てはめると、リンゴ(中玉)4分の1個(60g)、イチゴ(中粒)10個(90g)のようなカロリーであり、これらを合わせて250gを食べたとしても、だいたい100Kcalにしかならず、おにぎり1個にも満たない。多くのスーパーマーケットの青果売り場に「5 A DAY」のロゴ(図2)が表示されていたり、職場の食堂や子どもの学校での教育プログラムに採用されたりしているのを目にするだろう。


「食事バランスガイド」で望ましい食生活を実践
図3:食品ピラミッド

「アメリカ合衆国農務省が開発した、ひとり1日当たりの摂取量を示す食品ピラミッド。先端にはあまり摂取してほしくないものがある。穀物を基本として、野菜、果物を含めると全体の4分の3の量の摂取をイメージできる。肉や乳製品、油脂や糖類はあくまでも副次的に摂取しなくてはいけない。1サービングとは、おおよそ片手の手のひらに乗る量をイメージ。ご飯茶碗1杯、食パン1切れ、リンゴ1個、バナナ1房、牛乳コップ半分、60〜90gの調理した肉がそれぞれ相当。卵は肉30gに相当、と言われている。

食生活の基本はバランスの良い食事と言ったが、こちらもどのようにすればよいのか、なかなかイメージしづらい。そのため、毎日の生活の中で、食事の望ましい組合せやおおよその量を分かりやすくイラストで示したものをフードガイドと呼んでいる。その元になっているのは、「食生活指針」と言われるもので、生活習慣病を防ぎ、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)を高め、食料の自給率を高めるために改善すべきと説かれており、多くの国々でも同じような指針が示されている。しかし、具体性が乏しい部分も否めない。

わが国では、1985年に旧厚生省(現在の厚生労働省)が「健康づくりのための食生活指針」を発表し、2001年には、新しい「食生活指針」を国策として示している。余談だが、実はこれより以前の1945年8月にも「食生活指針」が出されている。こちらの内容は、玄米の炊き方から食料と成りうる副菜の調理法、さらには栽培法などが書かれており、戦争後の食糧難を切り抜けることが目的だったためだが、そちらの方が具体的で分かりやすい感じがする。

指針を分かりやすくフードガイドとして最初に示したのは米国のようだ。米国農務省は1992年に「フードガイドピラミッド(The Food Guide Pyramid)」(図3)を発表し、食事でどのくらいのバランスで穀類、主菜、副菜、果物などを摂ることが健康に良いかを、ピラミッド型のイラストとして示している。わが国においても、望ましい食生活の目安が「食事バランスガイド」として2005年に作られ、その表は、日本らしく独楽(コマ)型になっている(図4)。テレビなどで、主食、主菜、副菜、乳製品、果物をバランス良く取り、運動して独楽が回るようにしましょう、と紹介していたのでご存じの方も多いだろう。具体的に個人の日々の食事のバランスがチェックできるサイトも公表されている(http://www.maff.go.jp/j/balance_guide/index.html)ので、一度、試されてはいかがだろうか。


図4:食事バランスガイド

日本では「食事バランスガイド」を厚生労働省が提案して、ひとり1日あたりの食品摂取の量とバランスを示している。アメリカの図とは天地が逆になっており、コマの形になっている。この「コマ」を「運動」によって回転させることで栄養バランスが初めて成り立つ、という考え方だ。「SV」と図中にあるのはアメリカの図の「サービング」と同じ。市販のおにぎり1個、みかん1個が「1サービング」とされている点ではほぼ同様といえる。

YL Vol.01 2010.2.10発行

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