健康講座
筋肉がある人が元気に長生きできる!加齢による筋肉量の減少を、運動と食事でくいとめよう。
昔から「老化は足から」と言われますが、それは本当です。
歩かず動かないでいると足の筋肉は衰えます。足の筋肉が衰えると、つまずきやすく転びやすくなり、大腿骨骨折などして寝たきりの状態に。
筋力が衰えると、動きが鈍くなり体力が衰え、気力も衰え老け込んでしまいます。
加齢とともに筋肉量は減っていきます。筋肉量の減少をくいとめ、老化を防ぐには、体を動かし積極的に筋肉を使うこと。運動に加え、バランスの良い食事を摂ることが重要です。
国立健康・栄養研究所
健康増進プログラム 運動ガイドラインプロジェクト プロジェクトリーダー
博士(体育科学) 宮地 元彦 先生
- 加齢や運動不足によりサルコペニア(筋肉減弱症)になると、
寝たきりなど自立した生活ができなくなってしまう。 -
―年をとると筋肉は衰えますか。
宮地 人間の筋力だったり、自立して生活するための体力だったりは、体の筋肉量に依存しています。加齢にともない誰でも、筋肉量は減少します。筋肉量の減少のことを専門的には、「サルコペニア」といいます。
―サルコペニアとは聞き慣れない言葉ですが。
宮地 簡単にいうと、筋肉減弱症。ようするに筋肉が量的に減ったり、質的に弱ったりすることです。特に四肢の筋肉量が減少し、手や腕、足の筋肉が衰えると、出歩くことも、仕事や家事をすることも、自分の身の回りのことすらできなくなってしまう。骨粗鬆症や動脈硬化、心筋梗塞などは予防することが大切だとわかっていて、そうした病気にならず長生きしても、サルコペニアになっては、寝たきりなど人の手をかりずには生きていけなくなってしまう。サルコペニアは、高齢化社会が進む長寿国日本にとって、大変な問題なのです。
―加齢により筋肉は、どれくらい減ってしまうものなのですか。
宮地 筋肉量、筋力は、20歳の時を100とすると、一般に70歳で半分の50になります。30になってしまう人もいます。年をとって100を保つことは無理ですが、70歳で50になるのを70にすることはできます。
―サルコペニアの予防法、改善法を教えてください。
宮地 まずはサルコペニアは改善できるのかどうかということからお話しましょう。筋肉量が減り、筋力が衰えてしまった場合、それを戻すことはできます。サルコペニアは改善できるのです。筋肉は使わないと衰え、使えば使うだけ強く、太くなる。20歳の人でも、70歳の人でも、80代になっても、筋肉量を増やし、筋力を強くすることはできます。ただし、そのためには筋力トレーニングをしなければなりません。
―どのような筋力トレーニングが必要ですか。
宮地 筋肉量を増やし、サルコペニアを改善するには、その人の持っている最大の筋力の80%ぐらいの強度で、例えばバーベルなら10回以上は持ち上げられないような重さでのトレーニングを週に3回ぐらい続けることが必要です。
―サルコペニアの改善には、相当きつい筋肉トレーニングをしなければならないというわけですね。
宮地 そうです。高齢になってバーベルを使うようなトレーニングを続けるのは難しいですから、筋肉量が減らないよう、サルコペニアにならないよう予防することが大事になります。サルコペニアの予防には、バーベルやマシーンなどを使った強度の高い筋肉トレーニングは必要ありません。例えば、片足立ちをしたり、スクワットをしたり。高齢者の場合、歩くだけでも筋力の衰えは防げます。サルコペニアの最大の原因は加齢ですが、それに加え運動不足があります。年をとって足を怪我するなどして運動量が一気に減ると、一気に筋肉量が減り、サルコペニアに。病院に1週間も入院していたら、筋肉はあっという間に減弱してしまいますよ。サルコペニアの予防の鍵は、身体活動です。
―身体活動とは。
宮地 体を動かすことを身体活動といい、2つの要素があります。1つは運動、もう1つは生活活動です。運動とは、余暇時間に目的を持って行なうエクササイズのこと。フィットネスクラブに通ったり、ヨガや水泳をしたり、テニスやゴルフをしたり。ここ10年間を見ると、日本人の身体活動は著しく減っています。身体活動の主である歩数は、10年前は男性が1日に8200歩、女性が7300歩だったのが、今は男性が7200歩、女性が5900歩ですからね。身体活動は10年で15%近く減少しているというわけです。
―それは運動をする人が減っているからですか。
宮地 いいえ。運動を習慣にする人は増えています。ということは、何が起こっているのか。生活の中で体を動かす身体活動である生活活動が著しく減少しているんです。サルコペニアを予防するには、筋肉が減らないよう普段の生活で身体活動をいかに活発にするか。交通機関の発達した都会暮らしで歩いて通勤したり買い物に行ったりしている人と、田舎でいつも自家用車で移動する生活を送っている人では身体活動は大きく違います。専業主婦の人は、大家族で食事や洗濯など家事をしたり、お年寄りや孫の面倒をみたりしている人のほうが身体活動が大きい。仕事をリタイアして趣味もない、地域活動やサークル活動にも参加しない男性は、身体活動が極端に少ない。余暇時間にウォーキングをすることができなくても、通勤や買い物に行くなど普段の生活の中で歩けばいいんです。健康のためのウォーキングも、通勤や買い物などで歩くのも、やっていることは同じわけですからね。
―サルコペニアの予防には、1日に何歩くらい歩けば。
宮地 1日1時間くらい、8000歩は歩きましょう。
―1時間続けて歩かなければなりませんか。
宮地 家事や散歩など1日で8000歩ほど歩けばいい。大事なのは、速いスピードで歩くこと。さっさっと歩くのと、だらだら歩くのとでは、大きく違います。ちゃかちゃか歩くというのではなく、普段よりも歩幅を10センチ、かかと1歩分ほど前に出す気持ちで、下を向かず20メートルくらい先を見て、さっそうと歩いてください。トイレに行くときや、スーパーで買い物しているときなども、歩幅を広く、速く歩くこと。それを心がけるだけで、エネルギー消費量が20%近く増えますよ。中高年の人は、普段の生活を見つめ直してみましょう。生活活動を活発にするようにすれば、筋肉量の減少をくいとめ、サルコペニアを予防することができます。それだけでなく、脳梗塞や心筋梗塞、ガンの発症のリスクも減ります。寿命も5年は違ってきますよ。
―男性と女性のどちらのほうが、サルコペニアになりやすいですか。
宮地 圧倒的に女性ですね。なぜかというと、男性も女性も1日の歩数をみても身体活動が減っているわけですが、身体活動の量が減るということは、エネルギー消費量が減るわけだから太りますよね。運動不足は、肥満のもと。ところが、肥満者の割合が、この10年間でどう推移しているかをみると、男性は増えていますが、女性は減っているんです。
―なぜですか。
宮地 女性はちゃんとした食事をとっていないからだと思われます。美容のためとダイエットをして偏った食事になり、エネルギーが少なく、タンパク質やカルシウムなど大切な栄養素が著しく減っている。男性はメタボリックシンドロームが怖い、女性はサルコペニアやロコモティブシンドローム(運動器機能低下症候群)が怖い。日本人の女性は世界一長寿ですが、筋肉や骨の材料であるタンパク質、カルシウムの摂取量が少なく、筋肉や骨を増やす身体活動量が少ない。痩せているので生活習慣病にならず90歳過ぎても生きていられても、80歳くらいで骨が折れたり、サルコペニアになったりして、寝たきりに。元気で長生きならいいのですが、寝たきりで介護が必要な生活が続くことになりかねません。
―サルコペニアには自覚症状がありますか。
宮地 ちょっと歩いただけで膝が痛い、寒くなると膝が痛む。それは、炎症が原因なのですが、ねんざして腫れるなど急性の炎症ではなく、じわじわくるような筋肉や関節で起こる炎症。そうした炎症の原因は、主にサルコペニアなど筋力の低下が考えられます。筋肉量が減少し、筋肉がやせ衰えることにより、靱帯や腱、半月板などが炎症をおこし、膝などに痛みが出るんです。
―そうした痛みを解消するには。
宮地 慢性炎症に基づく痛みを解消するには、筋肉トレーニングです。膝が痛いのに筋肉トレーニングをすると、もっと痛くなると思われるかもしれませんが、痛みをとる最高の特効薬は筋肉トレーニングだということは臨床実験でも明らかになっています。ちょっと膝が痛いなという程度なら、筋肉トレーニングをしなくても、しっかり歩くだけで痛みを解消することができます。ちょっとした膝の痛みも放っておくと、サルコペニアになって、骨が折れたり、寝たきりになったり。プロテインなど筋肉に必要な栄養素の摂取が減ると、「貯筋」がないので、サルコペニアになるリスクが高まります。
―「貯筋」ですか。
宮地 筋肉を貯え、減らさない「貯筋」のためには、活発な身体活動と栄養バランスのよい食事をすること。仙人のような粗食が健康食だなどといわれますが、タンパク質をちゃんと摂らないと長生きしませんよ。もちろん、毎日油っこいものばかり食べるのはよくありませんが、偏った食事は駄目。日本の昔からの食事がいいといわれますが、塩漬けした焼き魚に味噌汁、梅干しや漬物とご飯では、塩分が多く栄養的にも偏っています。サルコペニアの予防には、運動をベースにし、バランスのとれた食事を摂ることが重要です。
―大変ためになるお話、ありがとうございました。
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