健康講座
健康寿命に目を向けよう
いつまでも健康でいきいきと暮らしたい――。誰もが抱くそんな願いを込めて、生涯現役ならぬ「生涯元気」をめざすための特集をシリーズでお届けします。この特集では、人生80年時代を迎えたいま、注目を集める「健康寿命」に着目しました。平均寿命が、生存期間という“年月”だけを測定しているのに対して、健康寿命は、“質”にも目を向け、心身ともに健康に暮らせる期間を表した新しい指標です。第1回の今号では、前半で健康寿命とは何かについての全体像を、後半ではより具体的に生涯元気を実践するために必要な事柄は何かなどについてをご紹介します。
- 取材協力・監修
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辻 一郎 先生
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学教授。医学博士。「健康寿命」にいち早く着目し、各種の研究・調査を実践。専門は生活習慣病・老化の疫学、保健医療の技術評価。厚生労働省が提唱する「健康日本21」の計画策定メンバーとして、その計画策定に携わった。
前向きな考え方が健康寿命をのばす原動力。
健康寿命とは
寿命の「質」に着目して、健康に暮らせる期間を表す考え方。
- 日本の健康寿命は74.5年。
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「健康寿命」とは、ひとことでいえば、健康に暮らせる期間を測ろうという考え方です。平均寿命は、0歳児がこれから生きるであろう年数を表しますが、その寿命の中で健康に暮らせる期間が何年あるのかを表すのが、健康寿命です。
WHO(世界保健機関)では2000年に初めて主要指標として健康寿命を発表しました。それによると日本の健康寿命は74.5年。平均寿命の80.9年とともに堂々の世界一です。
終戦直後の日本は人生50年時代でした。その後、栄養状態が良くなり、医療の発達や衛生の向上などによって、わずか半世紀で寿命は30年ものび、いまや人生80年時代を迎えました。しかしその反面、長寿の代償となるかのように痴呆性疾患や要介護高齢者の問題が増えてきています。
こうしたなかで、寿命をのばすだけでなく、その中身が大事なのではないかと寿命の質が問われるようになり、健康寿命の考え方が近年注目されるようになってきました。
健康寿命には、ただ長命なだけでなく、いつまでも健康を保ち、生活の質の面においても満足できる人生を送りたいという万人の願いが込められています。前述の数値でいえば、日本人の平均寿命と健康寿命の差は6.4年。この年数を短くすることが、より充実した人生を送ることになるわけです。
- 「自身」が老化を遅らせる。
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学問的には、健康寿命は「ある一定レベル以上の健康状態で暮らせる期間」と定義されます。一般には「痴呆がない期間」「日常生活に介護が不要な期間」といった形で定義されることが多いようです。
ここで注意したいのは、食事や入浴など身の回りのことを自立して行えることだけが、「健康」ではないということです。たとえ病気や障害を持っていたとしても、自分の気持ちが前向きであり、自らモチベーションを高めていくことができれば、それは健康であると考えられます。つまり健康寿命とは、「自分が健康だと自覚していられる期間」という意味合いがもっとも大切といえます。
というのも、自分に対して前向き(ポジティブ)なイメージを持っている人は老化のスピードが遅いことが、最近の研究でわかってきているからです。
心身機能が比較的優れた70歳以上の高齢者1000人を10年間追跡したアメリカの調査によると、「セルフイメージ(自己観)」や「セルフエフィカシー(自己効力観)」の高い人ほど老化のスピードが遅いという結果が明らかになりました。
セルフイメージ、セルフエフィカシーとは、いずれも「日常のさまざまな問題を解決する自分の能力に対する自信」といった意味です。自分にはそうした能力がある、あるいは自分は人から好かれている、自分は人の役に立っているといった自分に対するポジティブなイメージを持つ人、それらが高い人は老化のスピードが遅く、逆にセルフイメージの低い人や後ろ向きに考えがちな人は心身機能も低下しやすくなります。
ですから、「老化も気から」という側面を持っていることに着目しましょう。歳を重ね、身体機能が低下してくると、どうしても後ろ向きに考えがちですが、健康寿命は身体の機能だけを指すものではありません。仮に身体の機能が低下したとしても、常にポジティブな気持ちで前向きに考え生きていくことが何よりも大切です。
- 自分の生き方が問われる
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自分に対するポジティブなイメージは、それを持つこと自体が健康ということであり、健康寿命をのばすための原動力となります。
では、健康寿命をのばすために私たちは何をすればよいのでしょうか。生活習慣病の予防・改善は当然のことですが、これにプラスして、「自分のやりたいことをやりたいように一生懸命にやる」ことです。これにより、白分に対するポジティブなイメージを持ち続けることができるだけでなく、アルツハイマー性痴呆性疾患の予防にも役立つのです。
最近の研究によると、新聞を読む、本を読む、テレビを観る、美術館に行くといった知的活動に従事する時間が長い人ほどアルツハイマー性痴呆になるケースが少ないことが明らかになりました。簡単にいえば、痴呆性疾患を防ぐためには、頭を使うようにすればいいわけです。それはスポーツ観戦でも音楽鑑賞でも構いません。自分の興味のあることや趣味を楽しむことが脳に作用してボケを予防し、健康寿命をのばすことにつながります。
このように考えると、健康寿命をのばすことは、「自分は何がしたいのか」「自分とは何なのか」を私たちひとりひとりが問われていることと言い換えられます。
痴呆予防や老化防止のために、あれをしなければいけない、これはしてはいけないといった考え方ではありません。自分はどう生きたいのか。このことを常に考え実践することが、健康寿命をのばし、より充実した人生を送るために欠かせないこととなります。
- 運動で若返りをめざす。
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健康寿命をのばすためには運動トレーニングも効果的です。運動トレーニングは高齢だからといって手遅れということはなく、また、トレーニングをすればするだけの効果が望めます。
仙台で60歳以上を対象に行われた研究では、運動トレーニングを半年間続け、体力の指標である最大酸素摂取量を測定したところ、5歳相当の若返りがみられたと報告しています。
こうした結果に加えて注目したいのが、この研究に参加した人たちの意識の変化です。多くの参加者は運動訓練に参加することで他の参加者という新しい友だちを得て、行動範囲が広がり、生活が変わったといいます。さらに、歳をとると「去年できたことが今年はできなくなった」という喪失感を常に味わっていたものが、老化は何かを失うプロセスではなく、新しい何かを得られること、新しい何かを始めることも可能だという意識を持てるようになり、自信がわいてきたといいます。この自信は、先のセルフエフィカシーを高めることになり、心身が一体となって健康寿命をのばすことにも結びつきます。
これからの人生に向けて
これまでの人生経験を土台に、「次の」新たな人生を送る。
- 障害に負けずに生きる。
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健康寿命をのばすうえでもうひとつ大切なのは、身体機能が低下してきたとしても、決してあきらめてはいけないということです。
日本は平均寿命・健康寿命ともに世界一ですが、一方では寝たきり老人の数も世界一です。つまり、健康なときは世界一健康だけれども、いったん病気になると世界一不健康ともいえます。その理由は、障害が起きたときにあきらめてしまう人が多いからです。
欧米では一度障害が起きてもあきらめずに、再び元気を取り戻すケースも珍しくありません。万一障害が起きた場合でも、障害を受け止め、障害と共存していく姿勢を持ち、その中で自分にできる趣味や興味の対象を探し、実践することが、求められます。
- 人生を成熟させ実らせるという意職が大切。
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30年前、男性の平均寿命は定年の年齢とほぼ同じでした。定年後の余生は2、3年しかなかったわけですが、現在は、定年を60歳としても20年の人生があり、「残された人生」という表現も適切ではありません。
この20年を、ただ何かが失われていく期間と考えては、あまりにも淋しいでしょう。何度も強調しているようにポジティブな志向を原動力に、「次の人生」を成熟させて実らせていくという意識を持つことが必要です。
健康寿命をのばすことは、自分の興味のあることを一生懸命に行うこと、そのために自分とは何なのかを常に考えることです。それは、自分の人生が問われていることでもあります。30代40代の頃からどのように生きていくかを考えることも必要ですが、60歳70歳になっても新しい何かを見つけて始めることはできます。むしろ60年70年という人生経験は、人生を成熟させるために欠かせない財産となるはずです。このことを十分に認識することが、「生涯元気」に暮らしていくための出発点となるでしょう。
- Message from Dr. のばそう健康寿命
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辻 一郎 先生いつも前向きでいることが、健康寿命をのばす秘訣です。
これまで「老い」というと、余生であり、最後の時期、喪失の時として受け止められてきました。しかし、寿命がのび、定年後にも20年の人生がある。この20年間を新たにプラスされた期間ととらえ、第二の人生として考えることが必要でしょう。この間には、自分の興味のあることや趣味、交友関係など、新しい何かをつくっていくことができます。あるいはそれまでの人生の総決算として、より充実したものに仕上げていくことができます。ですから長く生きることは、何かを失う過程ではなく成熟させることと言い換えられます。こうした発想の転換によって何事も前向きにとらえ、皆さんがこれからの人生をますます謳歌していただくことを願ってやみません。
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